2012年4月5日木曜日

軍艦島上陸記


【体験報告】
軍艦島上陸記

 

 長崎の南西十八キロの沖合に浮かぶ端島(はしま)は、昭和四十九年まで炭坑の島として栄えた。最盛期には炭坑労働者やその家族をはじめ、鉱山会社の社員や施設従業員など、およそ五千三百人が生活していた。

長さ四百八十メートル、幅百六十メートルの小島である。五十メートルプールが百個ほどしか入らない島の上に、五千を超える人間が詰め込まれていた。ひとつのプールに五十人。当然のことながら、島は垂直に伸び上がり、人々は高層建築に暮らすようになった。大正時代、日本で最初の高層鉄筋アパートが建設されたのがこの島だ。

島の稜線に沿って連なるアパート群は遠く沖合から望むこともできた。軍艦のようだと誰かが言って、いつの頃からか軍艦島と呼ばれるようになった。

学校、病院、公衆浴場、映画館。生活に必要なすべてが島にあり、ひとつの街を作っていた。

炭坑は百二十年間掘り続けられた。昭和四十九年、石炭から石油へ。エネルギー政策の転換によって島は閉山。人々は去っていった。

 以後、無人の島である。

 潮に洗われ、嵐に襲われ、建物は崩れ落ちる。人間が存在した痕跡が、時間という溶液の中にゆっくりと溶けていく。

 閉山から三十年ほど経ったある年の八月、僕はふとしたきっかけで軍艦島に興味を持ち、上陸を計画していた。

現在、ネット上では軍艦島に関する大量の情報が公開されている。かつての居住者の部屋は押入の中まで写真に撮られ、プライバシーなど存在しないかのようだ。

そして良心的なサイトには断り書きがある。

「軍艦島は現在、上陸禁止です」

 では、どうしてこんなにたくさんの写真が存在するのか。

 はっきり『上陸しちゃいました』と書いているサイトも多い。ようするに、現在も軍艦島への上陸は(少々法律的な危険を冒せば)可能なのだ。

島まで運んでくれる船を調べるのはそれほど難しくなかった。

公式には上陸禁止だが、所有しているのが地方自治体であるため、町民や元島民が観光客を運ぶことには目をつむっている。そのひとつ、S丸という船に電話を掛けた。

船舶携帯らしく、エンジン音がうるさくて相手の声がよく聞き取れない。もっと大きな声で話せ、と電話の向こうで怒鳴っている。精一杯の大声で話したが届かなかったらしく、いきなり電話が切れた。

夜になってから、女の人から電話が掛かってきた。S丸の船長の奥さんで、物腰の柔らかい丁寧な女性だった。最初に電話に出たのが船長だったようだ。運賃は三人以内なら一万五千円。以後、ひとり増えるごとに五千円。午前九時に香焼という港を出て、島までは一時間。帰りは午後四時半に迎えに行く。

「島には泊まれないんでしょうか」

「それは出来ません」

あっさりと断られてしまった。とりつく島もない。

「どうしてですか」

「昔、花火をした旅行客がいたんですよ」

「花火?」

「ええ、花火。それで大火事になってしまっって」

 消防船を呼び寄せ、大変な騒ぎだったらしい。消防車も消防団も無い島だから、消防船から水をかけるしかない。船上火災のようなものだ。

「それ以来、島には泊めないようにしてるんです」

「そこをなんとか」

「申し訳ないですけど」

「花火はしません」

「……どうしても泊まりたいですか」

「とても泊まりたいです」

 押し問答の末、おばさんは言った。

「船長に聞いてみますね」

 船の予約だけして電話を切った。その後しばらく、おばさんから連絡は無かった。

泊まれるか泊まれないかがはっきりと分からぬまま、僕は友人のバンブーを誘った。バンブーは高校の頃の同級生で、一緒に学内新聞などを作っていた。好奇心は人一倍強い。誘ったのは直前になってだったが、数秒考えて、行くことを決めてくれた。

八月十二日の夕方に長崎駅前で待ち合わせした。僕は早めに長崎入りし、朝から市内観光を楽しんでいた。昼、出島を散歩している時に電話が掛かってきた。予定より早く着いたらしい。

路面電車を降りたバンブーは、半袖のシャツに短パンという軽装だ。会うのは二年ぶりだった。

「ちゃんと準備できてるの?」と訊かれる。 

「あんまし。何か必要?」

「無人島に行くんだからさぁ、準備が必要だって」

水や蚊取り線香の大切さを説くバンブー。僕はもう少し長崎観光をしたかったのだが、猛烈な反対にあい、午後から備品を買い揃えることになった。バンブーには軍艦島がどんな場所か、まだくわしく説明していない。ひょっとしてココヤシの生えた南国風の無人島でも想像しているのだろうか。

とりあえず、市内で昼飯を食べる。バンブーの後輩の実家が経営しているというちゃんぽん屋に入った。小さな店を想像していたら、五階建てのちゃんぽん専門のビルだった。

麺をすすっている時、S丸のおばさんから電話が掛かってきた。

「島に泊まれますよ」と、明るい声で言われた。「山形から来る学生さんたちがいてね、どうしても泊まりたいっていうもんだから、泊めることにしていたんです。同じ船で行くのに、不公平は出来ないですからね」

 なぜ山形の学生は泊まれるのかよく分からなかったが、とりあえず彼らに感謝だ。喜び浮かれている僕らに対し、おばさんは念を押した。

「夜は徘徊しないでくださいね。懐中電灯とかカメラのフラッシュとか。やめてくださいね。イカ釣り漁船に通報されてしまいますから」

 ちゃんぽん屋を出て、サイバックという大きなインターネットカフェに寄った。軍艦島のページをバンブーに見せる。外壁の剥がれ落ちたアパート。天井のない教室。初めて見る軍艦島の写真に、唖然とするバンブー。

結果としてバンブーはさらに慎重路線を主張するようになってしまった。

「やばいよ、この島。絶対に装備が必要だって」

そして買わなくてはいけない商品名をずらずらと口にする。非常食、寝袋、虫除けスプレー、応急セット……。

 すでに午後三時をまわっていたが、長崎の街を駆けずり回って備品を買い集めた。駅ビルでバンブーは長ズボン、僕は長袖のシャツを買った。ダイエーで虫除けスプレーやばんそうこを購入した。釣具屋でテントと寝袋を手に入れた。

首から下げる電池式の蚊取り線香がどうしても必要だと主張するので、薬局を何軒かまわった。三軒目でようやく見つけることが出来た。テレビCMでも宣伝されている人気商品らしい。

バンブーはカメラを持っていなかったので、使い捨てカメラをひとつ買った。もっと買っておいたらと僕はアドバイスしたのだが、ひとつで十分と言ってきかない。念のため僕はフィルムをたくさん買っておいた。

宿は港の近くにとることにした。駅前の観光案内所で民宿の電話番号を調べてもらい、あちこち連絡したのだが、お盆でどこも満室。四軒目の「江口荘」でようやく空き部屋を見つけた。

バンブーが挙げた備品をすべて買い揃えた上で、僕らは宿に向かった。市内から三十分ほどの住宅街の中にあり、宿泊客は僕らだけ。他の民宿は満室なのに、なぜこんなに空いているのか? どうやら江口荘の近くには三菱の造船所があり、そこに働きに来た人が利用する宿らしい。お盆で造船所が休みのため、客がいないのだ。

夜、荷物の整理をしながらバンブーと相談する。

「着替えとか、持って行く必要なくない?」

「そんなにいらんかもね。本を持ってきてるんだけど、これもいらないよな」

「ここに置いてかせてもらえたりしないかな?」

宿のお姉さんにお願いしたら、すんなり引き受けてもらえた。やさしい。

夜中、近くのコンビニで水と食料を購入した。パンにカロリーメート、ドラ焼きやキャンディを買った。ついでに酒も買った。島でビールを飲みたかったが、冷やすことができないので、おいしくないだろう。代わりに焼酎や日本酒、ワインを買った。缶コーヒーも持っていくことにした。これも、本当は暖かいコーヒーを飲みたいところだが、火が使えないのだ。さらに、バンブーのアドバイスに従って水をひとり四リットルずつ買った。二人合わせて八リットルである。一晩でこんなに飲むのか?と僕はいぶかったが、自信ありげに必要だと主張するので、おとなしく従うことにした。とても重い。

 宿では子供たちが廊下を走り回っている。ずいぶんと家庭的な宿だ。一階は飲み屋になっていて、それが重要な収入源のひとつだろうと思われた。「一杯飲みたいな」とバンブーが言った。だが、翌朝は早いので、やめておいた。

布団に入ると、一日歩き回った疲れですぐに眠りに落ちた。

 

七時半に起きて、香焼の港に向かった。香を焼く、という洒落た名前から風光明媚な浜辺を想像していたら、造船所や化学プラントの立ち並ぶ工業地帯であった。港は工場に挟まれた住宅地の一角にあった。

小さな港で、バスを降りると『S丸』はすぐに見つかった。

目的の船を発見!

船の写真を撮りたくなって、近くを歩いていたお兄さんにお願いした。すると、「皆さんも軍艦島に行かれるんですか?」と逆に訊ねられた。

「僕も軍艦島に行くんです」と嬉しそうに言った。

お兄さんはキノシタさんという名前で、僕らはキノさんと呼ぶことにした。

白いTシャツに、膝までの短パン。荷物はリュックがひとつと、紙のバッグ。「GARDEN ORIENTAL KOBE」と書かれている。ずいぶんと身軽な格好だ。バンブーがじろじろ見つめる。

「すごく軽装備ですね」

「泊まれるって知らなかったからねぇ」と愉快そうに笑って、「昨日知ったんですよ。山形の学生が泊まるから、僕らも泊まれるって」

 やはり、山形の学生のおかげだった。

「彼ら、どんだけ力を持っているんですかね」 

 どうしたらあの粗野な話し方をする船長を説得することができるのか

「美大生らしいですよ」

「美大生?」

 僕は聞き返した。船長、電話ではずいぶん乱暴そうな喋り方だったが、芸術に理解のある人なのか?

「美大生は優遇されてるんですか?」

「いや、そうじゃなくて、昔から一泊させる約束をしていたらしく」

「なんだ、そんな理由ですか」

 ようするに義理堅いだけのようだった。

キノさんは長崎のユースホステルで美大生たちと一緒だったらしい。全部で九人。無人島に渡るという意識が次第に薄れていく。軍艦島は観光地なのだ。

「僕ら、ひょっとしてすごくついてますね」とバンブーが言った。同行者がたくさんいるということで、安心したのかも知れない。

「でも、僕は迷っているんですよ。泊まるべきかどうか」

キノさんは決めかねている様子だった。

「泊まるんだったら、水を買っておいた方がいいですよ」心配するバンブー。「僕ら、ひとり四リットルずつ持ってきてますから」

キノさんは意外そうな顔をして、

「あれ? S丸のおばちゃんが水を持ってきてくれるって言ってたんだけど。違うのかな? ちょっと電話してみますわ」

S丸おばさんに電話して、キノさんは次第に不安そうな顔になっていった。

「お盆だから実家に帰っているみたい。挨拶できなくてごめんなさいって」

「水は持ってきてもらえるんですか?」

「いや、持ってこれないって」

 僕とバンブーは顔を見合わせた。

S丸のおばさん、電話ではしっかりした人のように思われたが、実はうっかりさんではないか。僕らも少し不安になった。僕らは、そして美大生たちは、無事軍艦島から帰ってこれるのか?

「水、買って行くことにするよ」

 キノさんは慌てて水を探しに行った。

 幸い、近くにコンビニがあった。二リットルボトルを二つ買ってきて、地面にどさりと置いた。

 タバコに火をつけながら、

「夜は懐中電灯もカメラのフラッシュもダメみたいやね」

「火も焚いちゃダメなんですよ」

「タバコの火にも気をつけろって言われたよ」

キノさんは軍艦島に渡るのは初めてだという。二十六歳。大阪で働いている。長身で、肩幅も広い。

「バスケ体型だな」と、バンブーが呟いた。

「よく勧誘されたけどね。スポーツは全然やってない」

「今はどんなお仕事されてるんですか」

「会計事務所。休みは三日間しか取れなくて、大急ぎで九州をまわってる」

「やっぱアレなんすか、廃墟マニアですか?」

「いや、別に廃墟マニアではないけど。むしろ廃線に興味があって。ほら、使われなくなった電車の線路」

廃線マニアではあるが、廃墟マニアではないらしい。

キノさんは白いタオルを頭に巻きつけた。そして、船長さんに挨拶しなきゃと言って、ひとりで桟橋に降りて行った。礼儀正しい。

船の横で青い野球帽をかぶった背の低いおじさんが船長だった。浅黒い。文字通り、海の男という印象を受ける。電話での態度が怖かったので、僕は必要に迫られた時に挨拶することにした。

戻ってきたキノさんが言う。

「僕らの他に、アマナイさんって人が軍艦島に渡るって。写真家で、何度も来たことのある人らしいんだけど」

 軍艦島を訪ねる写真家。なんだかかっこいい。

美大生たちは朝早く島に渡ったそうだ。船が何度も往復しているというのが、不思議な感じだった。定期便のように往復しているようだ。

僕らが立ち話をしていると、ワイシャツ姿のおじさんやおばさん、そして子供たちがやってきて、S丸に乗り込んでいく。キノさんは不思議そうな顔をして、

「えらい軽装備だけども」

「たぶん高島に行くんでしょう」と僕は説明した。高島は軍艦島の隣にあって、たくさんの人が暮らしている。

全員乗り込んで、いよいよ船が出るぞという時、桟橋から駆けてくる人があった。

大きな荷物を抱えたお兄さん。長い髪を後ろで束ね、顎が大きくて、顔がいかつい。灰色のシャツからはみ出しそうなほどに腹が膨れている。年齢は三十代後半くらいか。

船長にしきりに頭を下げて、透明な容器に入った大量の水と大きな金属製のカバンを船に積み込んだ。

重装備の兄さん登場

船長から、軍艦島行きの客は甲板にいるように指示があった。乗客室は高島行きのおじさんやおばさんが占領する。長髪のお兄さんが最後の乗客だったらしく、船はポンポンと音を立てて出航した。

甲板では小学校高学年くらいの男の子たちと一緒になった。高島に住むおばあちゃんの家を訪ねるそうだ。

海を見つめる少年たち。

潮風を受けながら船は進む。高層マンションをいくつも乗せた高島が近付いてきた。島とは思えないほど高いマンションが建てられている。都心の住宅地をハサミで切り取って海の上に置いたかのようだ。

 現在の高島町の人口は千と少し。かつては二万以上の人々が暮らしていた。数十年で人口が二十分の一に減ってしまった、日本でもっとも過疎化の激しい町らしい。

「石炭を 魚にかえて 島おこし」

 これが高島町の再活性化スローガンだそうだ。漁業という意味ではなく、釣り客をターゲットにした観光資源の開発を目指している。

 ほとんどの客が高島で降りて、残ったのは僕とバンブー、キノさん、それから長髪のお兄さんだけだ。怪しげな人間ばかりが残ってしまった。ここから先は高島行き定期連絡船ではなく、軍艦島行き不法上陸船だ。

ほとんどの客が高島で降りてしまった。

船が高島の後ろに回り込んだ。

やがて、軍艦島が姿を現した。


ロバート·ダドリー、 liecesterの伯爵は誰だった

実物は写真とは違う。目の前に現れたコンクリートの塊には、それまでの印象を完全に覆してしまうほどの迫力があった。

島というより、巨大な建造物だ。周囲は高い堤防に囲まれ、海から垂直に突き出している。輪郭が直線的で、たしかに軍艦を彷彿させる。無人の高層アパートが並んでいた。十階建て、十一階建て。どれも大きい。

軍艦島、現る

僕は甲板から身を乗り出して写真を撮り始めた。

隣ではいかつい顔の兄さんが腕組みして仁王立ちしている。写真はもう充分すぎるくらい撮ったということだろうか。僕は尋ねた。

廃墟の島だ。

「アマナイさんって、写真家なんですよね?」

「いえいえ、写真は趣味です」と、首を横に振る。

「廃墟の写真ばかり撮られているんですか?」

「廃墟というより、市街の写真が多いかな」

「市街? たとえばどんな場所を?」

「今は大阪にいるけどね・・・大阪は、おもろいもんが多いな」

街で見つけた面白い風景や出来事の写真を集めているらしい。

顔をゆがめて笑う。ちょっと濃い感じだが、つきあいやすそうな人だった。クマさんと呼ばれていて、本人もその名前を気に入っている様子。たしかにその名前の方が似合う。

島が目の前に迫ってきた。

高島を出てから十分も経っていない。数キロメートルといったところか。携帯が入りそうですね、と言ってみたら、「入るらしいよ」とキノさんが答える。無人島に対するロマンチックなイメージが完全に崩れた。

バンブーは興奮気味で、ひとつしかない使い捨てカメラで何枚も写真を撮っていた。それを使い終わったら僕のフィルムを借りるつもりなのだろうなぁと思いつつも、止める気にはなれなかった。実際、海から見る軍艦島の姿はとても美しかった。

割れた窓の向こうに青空

 船は軍艦島の側面を移動した。

島で一番高い建物は小さな神社だった。正確に言うなら、島はひとつの岩山になっており、その一番高い場所に神社が建てられているのだ。

 直線的なコンクリート建築の上に、コンクリート製の神社が屋根を突き出している。

神社の横に人影があった。海を眺めている。美大生のひとりだろう。

「あそこから上陸するんですね・・・」キノさんが堤防の一角を指差した。コンクリート護岸の切れ目に赤い鉄板がはめられ、「無断立ち入りを禁ずる」と書かれている。

鋼鉄の扉が我らの行く手を塞ぐ。しかし……

S丸が軍艦に近づいていく。近づくというより、突っ込んでいく感じだ。

船員の赤シャツがエンジン音に負けない大声で怒鳴った。

「水、持ってるね?」

「はい」と、怒鳴り返した。

「今日は、えらく潮が高いな」と、クマさんがひとりごとのように言った。

船が桟橋から数十センチの場所で止まった。

「降りるよっ」

クマさんが叫んで、巨体からは想像もつかない身軽さで桟橋に飛び移った。

僕らも慌てて後に続いた。気長に停泊するわけではないらしい。僕らを降ろしてすぐに、船は離れて行ってしまった。案内も何も無い。

あまりにもそっけない上陸。

「では明日の四時二十分に!」とクマさんが船に向かって叫んだが、返事は無かった。ポンポンというのどかなエンジン音だけを残して、船は去って行った。

「そっけねーな」

みんなで苦笑した。

桟橋から海を見下ろすと、驚くほど青い。底に沈んだコンクリートブロックの凹凸が見えるほど澄んでいる。排水の垂れ流しが無ければ、水は綺麗になるのだ。

鉄製のハシゴをよじ登り、堤防の上に上がった。

なぜかハシゴがあるのだ。

目の前に、荒れ果てたグラウンドが広がっていた。そのむこうには十階建ての学校。外壁が完全に剥がれ落ちている。

廃墟が迎えてくれる。

グラウンドに降りた。

ここでサッカーしたら、ボールが海に落ちないだろうかと余計な心配をする。いや、島の子供なら海に飛び込んで回収できるのだろう。

目の前に大きな黒い石が転がっている。「石炭やで」と、クマさんが教えてくれた。グラウンドのあちこちに同じような黒い塊が散らばっている。

石炭は学校の理科室や博物館でしか見たことがなかった。ガラスケースや標本箱に入って、「石炭」とラベルを貼られた黒い石。だがこれは野生の石炭だ。大きくて力強い。地面に投げつけて割ってみた。ふたつに割れた。割れ目の内側は擦りガラスのようにざらざらとして、光を反射した。

軍艦島が活況だった頃には「黒いダイヤ」と呼ばれて、島の唯一の財源だったのだ。今では拾う人もいない。

とりあえず、石炭でキャッチボールしてみた。少しだけ、島の住民の気持ちになれた気がした。

とりあえず、石炭でキャッチボールしてみた。

グラウンドの端に公衆便所を発見し、バンブーが大急ぎで駆けて行った。

 左手にはテントが三つほど並んでいたが、持ち主の姿は見えない。美大生のテントなのだろうか。

 僕らは校舎の玄関まで荷物を運んだ。日陰に入ると涼しい。まだ午前九時だというのに、日光が痛いほどに強い。学校の入り口で腰を下ろした。

クマさんが僕らを見回しながら確認した。 

「皆さん、軍艦島は初めて?」

「ええ」

 みな、軍艦島の初心者だ。

「クマさんは何回目ですか」

「うーんと…」と考え込み、「十六回目、かな」

「十六回!」

 平然として言うので、尊敬するというより、距離を感じてしまった。軍艦島にマニアが存在することは聞いていたが、いきなり出会ってしまうとは。

「問題が起きるたびにルートを変え・・・」と回想するクマさん。

「ルートというのは、島の中の?」

「いや、島に渡るルート。初めは高島から船が出とったんやけどね。島で花火した奴がおって、火事になって。その船、就航しなくなってしもた」

 船主が責任を感じて辞めてしまったのか。悲しい話だ。

 キノさんは憤慨していた。

「花火? 軍艦島に来て、そんな遊びしてる場合じゃないっすよねぇ」

けれど僕ら自身、遊び以外の目的がないことに気づいたのか、すぐに黙ってしまった。

クマさんは軍艦島で一週間暮らしたこともあるらしい。

「その頃は三菱の所有でね。結構自由に使えた。建物の各部屋でライトを焚いて。島に人が住んでいるかのように見せて、写真を撮ったりした。あの頃は楽しかったなあ」

 昔を懐かしむように、目を閉じた。

「ここのグラウンド、台風の時は海になってしまうねん。土が全部流されてな。流された後で埋め立てしとる」

 へぇ、と僕らが感心すると、続けて、

「そこの六十五号棟はヤバいで。近付きたくない。小学校の最上階も見てみ。天井が落っこちて、格子模様が見えとるやろ?」矢継ぎ早に言って、「あーあ、怖いことばっか言うてしもた。ごめんね」

するとキノさんが小声で、

「でも、いちおう聞いておかないとねぇ」と呟いた。

僕はというと、クマさんから危険事項を教えられたものの、緊張感が急速に失われつつあった。昼間の軍艦島はあまりにも平和すぎるのだ。想像していたようなおどろおどろしさがまったく感じられない。のどかな海辺の町に遊びに来ているような感覚だ。爽やかで透明な廃墟。乾いた風が吹き抜けていく。キノさんがタバコに火をつけた。クマさんがさらに続けて、

「島にはいろいろおもろいものが転がっていてな。地獄段の横の押入に貼ってある新聞、すごく古いで。これまで見た中で一番感動したのは、東京オリンピックの開幕日の新聞や。新聞社にも置いたらへん。マイクロフィルムしか残ってないはずや」

僕は不思議に思って尋ねた。

「誰も持って帰ったりしないんですね、そういう新聞とかを」

骨董屋が乗り込んでくることは無いのだろうか。

「そりゃ、ねぇ」クマさんとキノさんが顔を見合わせた。

「みんな、良心的なんですね」

 上陸者のモラルによって島が守られているとしたら、なんだかいい話だ。

小学校入り口の壁にはタイル画が描かれている。島の上を飛ぶ白い鳥。その下にプラカードが貼ってあり、詩のような文章が刻まれている。

 

    +++   +++  

 

たとえ

荒れ果てようとも

朽ち果てようとも

世間から

棄てられた島と言われようとも

ここは私たちの大切な故郷

 

もとの岩礁の姿に戻るまで

思いはこの島に残りつづけます

 

だから

荒らさないでください

汚さないでください

盗らないでください

 

この願いを聴いて下されば

私たちは感謝すると共に

貴方の無事をお祈り致します

 

端島人一同

 

    +++   +++   

 

タイル画と端島人からのメッセージ。

「ちょっと見てまわろか」

クマさんが立ち上がった。のしのしと大股で歩いていく。瓦礫につまずかないよう気を付けながら後を追いかけた。前を歩いていたキノさんが振り返って、

「長崎のユースホステルで軍艦島のツアーを申し込むと、クマさんが案内するらしいよ」と教えてくれた。

「すげぇ」褒められて、照れるクマさん。

「午前中だけ、超特急で島内を案内しよか」顔をほころばせながら言った。

 廊下の天井が剥げ落ちて、鉄製のパイプが無惨なほどに露出している。

突き当たりが体育館。屋根が見事なまでに吹き飛んでいた。床は当然、ぼろぼろだ。もはやここでバレーボールしたりすることは出来ない。

学校の十階まで上がった。突き当たりに、隣の建物に通じる渡り廊下があった。フェンスは落ちてしまったのか、吹きさらしだ。バランスを崩したら十階下までまっさかさまだ。

「こいつは絶対に渡りたくない」

 クマさんがオーバーに身震いした。コンクリートの割れ目から鉄筋が見えていて、しかも錆び付いている。

「向こう側も学校だったんですか?」

「いや、ふつーの家や」

「ふつーの家と学校が、どうして繋がってるんですかね」

「・・・わからん」

「遅刻せんようにと違いますの?」と、キノさんが冗談を言った。

後になって知ったことだが、渡り廊下はあちこちにあるのだ。島の全体が渡り廊下によって密接に結びつき、ひとつの有機体として機能していたようだ。

十階の窓から島の南半分を望むことが出来た。窓際に立ったクマさんが説明を始める。

「それでは、順番に行きますか」嬉しそうに手を揉み合わせて、「手前の建物がポンプ。その奥にエレベーター。横に、空気を送り込む装置。酸欠になっちゃうからね。それから、人間が入るための穴も同じ場所にある」

崩れ落ちたペルセポリスのような遺跡群を指差すクマさんの頭の中では、三十年前の島の姿が鮮やかに映し出されているのだろう。

工場跡という遺跡。

「船着場はそこにあって、石炭を積み出していてね」

「今は、炭鉱には入れないんですか」

「もう入れない。注水してある。廃坑したら、水入れるもんやねん」

「どうしてですか。危ないから?」

「それもあるし。このへんはポンプ止めたら、自然に水が入りよる」

残念に感じながらも、少し安心した。もし入れたとしたら、きっと入っていたはずだ。どんあ危ないめにあったか分からない

「家は山の上と下でグレードが違うんやで。やはり山の手というものがあって・・・」

言われてみると、たしかに山の上の建物の方が崩壊の度合いが緩やかだ。炭鉱に入る「鉱員」と事務を行なう「職員」が共に暮らしていて、住居もまったく別だったらしい。狭い島の中に二種類の階級が存在したのだ。

 クマさんは窓から手を差し広げながら説明した。

「この島、初めは神社のある岩山だけやってな。それを拡張したんや。海を埋め立ててな」

 船の音が聞こえてきた。のどかなエンジンの音。

「十時の便だ」

一日に何往復しているのだろうか。あまりにも陸から近すぎる。上陸を禁じるなんて、無理な話だと思った。

隣の教室の壁には大きな落書きが描いてあった。二匹の竜が絡みあっていて、LOVE-AN-DERICOと書かれている。

「この落書き、当時としては画期的だったんやで」とクマさんが誇らしげに言った。

そうは言うものの、失礼ながらクマさんが言うとあまり説得力がない。クマさんはモダンアートというより、もっと泥臭い、中世絵画とかが似合う。

「当時としては画期的な落書き」

「十年前は、こんな絵はニューヨークにしかなかったんや」

まるで専門家のように自信ありげに言った。

部屋を出て階段を上がると、玄米茶のペットボトルが置かれていた。黒いマジックで「どうぞお召し上がり下さい。雜賀雄二」と書かれている。軍艦島の撮影で有名な写真家の名前だ。本当に彼が置いたのかどうかは分からないが。

「このお茶、四月に来た時からおいてある」とクマさん。

「誰も飲まなかったんですね」

 もちろん、僕らも飲まなかった。

さらに階段を上がって、屋上に出る。途端に、青空の中に放り出された感覚。

周囲にフェンスが無い。端は垂直の壁になっていて、真下に海。ぎりぎりの場所に立って、スリルを味わう。青空と海。

「最高だね、この学校」

バンブーは上機嫌だった。

 さらにもう少し、学校の中を歩き回った。実験器具が散乱する理科室や、恐ろしげな楽器が散らばる音楽室を覗いた。

授業風景(イメージ)

教員室には本が散乱していた。その上に寝ころんで写真を撮ると、クマさんが顔をしかめて、

「ダニがおるで」と釘を刺した。僕は慌てて飛び上がり、背中をはたいた。

小学校の裏手にまわった。

「これを先に見せた方が良かったんやろかな。それとも降りてきた後で見せる方がいいんやろか」クマさんがいたずらっぽく笑って、学校の下が大きな池になっているのを見せてくれた。土台の土がすべて流れ去り、水の中に柱が突き刺さっているのだ。錆び付いた数本の柱と壁の残骸が十階建ての学校を支えている。

「台風で、土台が流れてしもうたんや」と、愉快そうに言った。

学校の隣はマンションだった。どの部屋もあまりにも開放的すぎて、住居というより海の家を思わせる。ひとつの建物の中に数百の海の家がある感じだ。

ちょっと一服。


1837年にコンピュータのもので構成された

マンションの屋上まで上がった。建物はコの字型をしている。僕とバンブーの場所から中庭越しにクマさんとキノさんを見ると、ぼろぼろの廃墟の上に平気な顔をして立っているのが見えるわけで、おもわず

「そんなところに立って、正気じゃないですね」と声をかけると。

「こっちから見ると、君たちも正気に思えないよ」と笑った。

崩れ落ちても知りませんよ。

建物の下では美大生たちがスケッチしていた。声をかけると、軽く会釈した。

僕らは屋上から一気に地下室まで降りた。共同浴場があった。風呂桶の中で裸になり、キノさんのタオルを頭に乗せて写真を撮った。

汗をかいた後は、お風呂。

「こんだけたくさんの人が住んでいたのに、風呂場がこんなに小さかったら大変ですね」

「昔の人は狭いのに慣れていたんじゃないの?」

 それにしても小さすぎるなと思った。

 地下浴場から地下購買部の跡地を抜けて、ふたたび地上にあがった。

高層アパートの間を歩いた。地面は無数の瓦礫で覆い尽くされ、気を抜いたら足を取られて転んでしまいそうだ。石と材木が混ざり合い、形があるようで形が無い。具象化されたノイズ。隙間に足をとられないよう、気をつけて歩いた。

「あれが地獄段」と、クマさんが教えてくれた。軍艦島のホームページでは必ず紹介されている有名な場所だ。いったいどんな階段なのだろうと期待していたが、ごく普通の石段だった。「地獄」という言葉から想像したさがまったく感じられない。明るい陽の光に照らされているからかも知れない。

有名な「地獄段」

「なんで地獄段って言うんですかね?」

「急やから」

それ以上の説明は必要ないというように、クマさんは先に行ってしまった。

建物の間に、風呂桶ほどもある巨大な煉瓦の塊が挟まっていた。

「これが、台風の力や。奥にあった建物が倒れて、こっちまで来てもうた」

映画館の外壁だったらしい。五十メートルほど離れたこの場所まで飛ばされてきたのだという。

「もひとつ、おもろいものをお見せしますわ。ちょっと戻るけど」

十メートルほど戻って、壁が崩れて吹きさらしになった部屋に入った。奥には丈夫そうな木の格子がはめられている。つやがあって、最近磨いたばかりのようだ。

「これは、新しいんですか?」

「いえ、昔からあります」と、自分の家を褒められたかのように微笑んで、「ここはね、警察の留置場だったんです」

不思議な格子だった。その格子だけ、時間の流れを感じさせないのだ。付け替えたのではない証拠に、鉄の蝶番がぼろぼろに腐っていた。

「えぇ木を使っとるよ」

「これで家を建てたら、丈夫な家が建つでしょうねぇ」

丈夫なものは長持ちする。現代の留置場にも最高の建材が使われていたりするのだろうか。

外に出ると、美大生の女の子が崩れ落ちた建物のスケッチをしていた。大きな紫色の帽子をかぶった、かわいらしい女の子だ。

僕らは島の南端に向かった。クマさんから借りた地図によれば、このあたりは当時から『潮降り街』と呼ばれていたらしい。西側なので、潮風や高波の影響を強く受けるのだろう。足元の木材はおしなべて湿っぽい。建物の痛みも著しい。立派な椅子の並んだ部屋を見つけた。

「床屋だ」とバンブーが言った。

「なんでも揃ってますね」

足りないのは何かな、と考えてみた。居酒屋はたくさんあったのだろうか? 喫茶店は?

 潮降り街は商店街のような場所だったのではないかと想像してみた。たくさんの人間が行き交い、常に活気あふれる街。喧噪。

正面の建物に『立ち入り禁止』というプラカードが掲げられていた。

「この建物は、ほんまに入らない方がいい。大正五年製やし」と、クマさんが説明してくれた。島で一番古い建物らしい。

 前にも後ろにも建物の残骸ばかり、地面には建材が無秩序に散らばっていたが、不思議とゴミの中を歩いているという印象は受けなかった。崩れ落ちた建材はむしろ生き生きとした風景の一部だった。

島の南端に着いた。軍艦島を船に見立てるとしたら、その先っぽに当たる場所。このあたりには工場が立ち並んでいたらしい。男たちは炭坑で働くため、工場は女性や子供が働く場所だ。荒涼として、島の中でも特に廃墟らしさが著しい。文明の残骸、といった印象を受ける。

「北斗の拳みたい」

バンブーが言ったので、みんな笑った。実際、航空機に爆撃されたか、激しい銃撃戦が行われた後のように、工場は細かく破壊されていた。これも台風の力なのだろう。

北斗の拳の世界。

プールがあった。水は入っていない。なぜこんな場所にプールを作ったのか、クマさんも分からないと言う。工場街の真ん中である。プールではなくて、工業用水でも溜めていたのか。 

堤防に座って沖合を眺めた。はるか遠くを、フェリーがゆったりと進んでいく。

「のどかなんですけどね、島のまわりは」

「このコントラストがすごいんやって」

海の中にぽつんと浮かぶ、崩れ落ちた島。

帰りは島の東側を歩いた。屋根が吹き飛び、骨組みだけになった建物。

「はげしー!」

 アパートと違って、業務関係施設は完全に崩壊しているものが多い。

「ここが炭鉱の入り口で。この建物にタイムカードがあって、トロッコで下に入っていく」

 時間の止まった島で、かつてはタイムカードが使われていた、という組み合わせが面白かった。分刻みの時間が流れていた頃もあったのだ。

「職場から学校が見えるんですね」と、バンブーが言った。

「いいねぇ。『お父さーん!』って、呼んでみたくなるよね」

「そのうち飽きるだろうけど」

炭鉱入り口の横の坂道を上った。

小高い丘の頂上に灯台があった。僕らが登り切るのを待ちかまえていたかのように、山上を風が吹き抜けた。

山頂の灯台。ここからの景色は絶景だ。

「うわっ、めっちゃ涼しい」キノさんが歓声を上げた。

「しかも、景色も良いよ」

 僕らは並んで海を眺めた。

 水平線の下で水がきらきらと瞬いていた。

灯台には畳ほどの大きさの太陽電池が備え付けられていた。

「この灯台、自家発電してるんだ」

電気の来ていない島だから、当然といえば当然だ。

クマさんが沖合に見える小島を指差して、「岩礁が見えるやろ? あそこまで掘っていったんや。地下を七百メートルな」

「へぇ」

軍艦島は海底炭田を掘るための島だったのだ。海の底に、蟻の巣のような炭坑が張り巡らされている。それが今は海水に満たされ、水の中でゆっくりと朽ちている。

灯台の脇に四人並んで座った。

「いやー。写真で見た以上ですね、軍艦島」と、キノさんがため息をつく。

「もっと、陰気臭いところかと思ってました」と僕。

「天気のせいちゃう?」

「それは、あるかも」

僕らは立ち上がって、深く深呼吸した。

「昨日は池島っていう廃墟に行ったんですけどね。そん時は雨が降っていて。その島にはまだ人が住んでいるんですよ。おばあちゃんが通ったりするから、『この人、ここに住んでるんだなー』って考えてね。辛気臭くなっちゃって」とキノさん。

 なんだかんだいって廃墟マニアじゃないか。

「確かにここはそういう生々しさが無いですね。乾いた廃墟というか」

島に残っているのは、骨だけだ。島の全体が、乾ききった白骨になっている。ここまで乾いてしまうと、もはや不気味でも何でもない。むしろ、朗らかで明るい。叩けば乾いた音を立てる、白骨だ。

 バンブーが水平線の向こうを見つめて呟く。

「この場所、最高だなぁ」

「島の子供たちもここで海を見ていたんじゃないかな」

「灯台は新しいんやで。島が無人になってから建てられとる」

 四人は取りとめもない会話を続けた。もう少し、この場所にいたかったのだ。

「クマさんって、どちらの出身ですか」

「大阪の堺です」

 キノさんが驚いて、

「おっと、それはすごい偶然だな。実は僕も堺なんですよ。あれれ、でも、長崎のユースでガイドしているんですよね?」

「夏はずっと来とるしね。それに、今は会社を辞めとる」

 昔から長期休暇をとって軍艦島に渡ることを繰り返していたのだが、ある時思い立って、会社を辞めてしまったそうだ。たしかに軍艦島フリークには一般的な仕事は向かないかも知れない。

クマさんとキノさんのふたりは軍艦島への上陸ルートについて論じ始めた。

「野母崎から出ている船もあるらしいですね……ノモ丸、だったかな?」

「二、三箇所あんねん」

「高島からも昔、船が出ていたって聞きましたよ」

「今は出ていない。火事の件があって以来、ないよ。究極のルートは自分で船を出すことやな・・・。この前の夏に来た時は、ゴムボートにエンジンつけて渡って来たやつもおったからな」

 長い休憩の後、僕らは島内探検を再開した。今度は茫々と生い茂った草を掻き分けて進む。

「そこに穴があるし気をつけてな」ひとつひとつ、穴の場所を教えてくれるクマさん。

「よー憶えてますね」

「穴がどんどん増えていくから、憶えるのが大変や」と笑って、「あ、そや。住んでみたいなって思わせる家があるから、見せるわ」と脇道に入った。

「山の手ですか」

雑草の茂みに挟まれた細道を抜けると、白い壁のマンションがあった。

「これが新しいマンションや」

それほど崩壊の進み具合が著しくないマンション。ただ、床にはもちろん建材が散乱している。

「うわ、きれー。これがきれーに見えちゃう。これが」バンブーが愉快そうに言った。

「この辺の家は高級幹部の家やから・・・・・・どや、『オーシャンビュー』やろ」

 正面の壁が完全に崩れ落ち、吹きさらしになっているために、真っ青な海が目の前に広がっていた。部屋が夏の光に満たされている。

真っ青な海。

建物の中に公衆浴場もあった。地下の浴場と違って、眺めが最高だった。でも、やはり小さい。こんなに小さな浴場はいくつあっても足りない気がする。

高級マンションの隣には長屋のような建物があった。

「あっちのはボロいですねー。長屋みたい」と僕。

「そうそう、高層長屋や」

「高層?」

「見えているのは最上階。ずっと下まで続いとるんやで」

近付いてみると、実際、一階と思っていたのが実は十階だった。斜面に沿って建てられているので、十階から入ることもできるのだ。

軍艦島にはこういった複雑な構造をした建物が多く、屋上が緑道によってつながっていたりする。

道に沿って、神社まで歩いた。

端島神社。石の鳥居の奥に、コンクリートのお社が建てられている。鉄筋コンクリートの島に木製の神社は似合わないとでも考えたのだろうか。

コンクリート打ちっ放しの神社。

お社の外壁を撫でながら、「この神社、倒れてないってのがすごいな」とバンブーが感心している。お社は細い四本の柱に支えられている。これで長い風雨に耐えてきたのだ。

「神社も鉄筋?」

「もちろん鉄筋」

 お社の前にはお酒が供えてあった。神様とかではなく、神社自身にお酒を供えたい気分だった。

 太陽が頭の真上に来ていた。小学校前まで戻って、昼飯を食べることにした。クマさんが近道だと教えてくれた道はアパートの下をくぐり、草むらの間を抜ける細道だった。

軍艦島ではほとんどの建物が渡り廊下で結び付けられているので、まるで蜘蛛の巣の上を歩いているようだ。やがて立体迷路の出口、小学校の玄関に戻ってきた。歩き回って、腹も減っていた。パンやドーナツを地面に並べた。風が吹き抜けて涼しい。キノさんが僕らの食料を見て、

「ぎょーさん買うてきたな」と呆れる。

ドーナツをかじり始めたバンブーに、クマさんが尋ねた。

「軍艦島のこと、昨日知ったんやって?」

「はい・・・・・・無人島に行くってのは聞かされていたんですけど、くわしく知ったのは昨日です。・・・・・・もっと、草ボウボウの島かと思ってました」

言われてみれば、この島は草が少ない。三十年も経つというのに、草に覆われていないのはどうしたことか。

クマさんは僕にも尋ねた。

「そちらはどうして軍艦島を知ったの?」

「大学で軍艦島ツアーってビラを見たんですよ。何人かで出かけましょう、っていう。でも締め切りが過ぎてて」

「ほぅ、そんなんあるんや」

「クマさんは?」

「小学校の頃、図鑑で」

「図鑑!」

 軍艦島の載った図鑑。どんだけ楽しい図鑑だろう? 冒険図鑑? だが、クマさんは笑いながら説明した。

「石炭の説明で、炭鉱の島として載っとった。上陸できるって知ったのは大人になってからやけど」

「この島、石炭を掘っている頃は煤で真っ黒だったんですかね」

「どうやろな。掘るだけやし。炭鉱の中は大変だったやろうけど。外では何も燃やさへんからな。案外、綺麗だったかも知れん。電気は本土から送電しとったみたいやし」

「だとしたら、子供たちにとっては最高の環境だったのかも知れないですね」

突然、クマさんの携帯が鳴った。耳に当てて、「え!」と驚いている。

「知り合いが来とる」

以前、軍艦島で知り合った人たちが、たまたま島に来ているのだそうだ。クマさんのカバンを覚えていたらしく、学校前で見つけたために電話を掛けてきたという。軍艦島リピーターの間では友人関係が形成されているようだ。

食事を終えたのは午後二時過ぎだった。朝からずっと海ばかり見ていたので、泳ぎたくて仕方ない。クマさんは泳がないというので、残りの三人で堤防を越え,桟橋に下りた。

誰も見ているわけがないので、裸になって水に飛び込む。飛び込んだ勢いで、底に触れた。コンクリートだった。島の周りにはコンクリートブロックが敷き詰められている。水の深さは五メートルくらいだろうか。

 浮かび上がって、穏やかな波間に漂った。

 陸地が数キロ先に見える。自分のまわりにある水が、対岸の岸辺までつながっているのだ。とてつもなく大きなお風呂に入っているような気分だ。体がどこまでも広がっていくような感覚にひたる。

 軍艦島自体が海の上に浮かんでいるように見えるので、陸の近くなのに、大洋の真ん中で泳いでいるような感覚だった。

キノさんはあまり陸から離れず、桟橋からすぐ近くで泳いでいる。

水の中から軍艦島を見上げると、垂直の岸壁は船の側面そのものだ。巨大な船体が、遙か向こうまで続いている。

仮に軍艦島が船であるとしたら、それは時の流れの中を進む船なのだろう。ヨットの動きで風の流れを知るように、この船は時の流れを教えてくれる。

低いモーターの音が聞こえてきて、高島の方角から小さな漁船が現れた。

おじさんふたりと若いお兄さんが三人、僕らが泳いでいる場所から二十メートルほど離れた地点に船を停めて、シュノーケルと水中眼鏡をつけて水に飛び込んだ。


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 近寄って、何をしているんですかと訊いてみる。サザエを採りに来ているとのこと。

「採れますか」

「今日はまだ」

「手伝わせてください」

シュノーケルとゴーグルを使わせてもらいたかっただけなのだが、お兄さんはそれを察して快く貸してくれた。

深く潜ると、夏の海が眩しくきらめいた。白い波紋が海底のコンクリートブロックの上で揺らぐ。素人の僕がサザエを見つけられるはずもなく、しばらく遊んでからお兄さんに返した。

そのまま船の近くを漂っていると、おじさんのひとりがゴーグルとシュノーケルを外して船に上がった。ばしゃばしゃと横に泳ぎ寄って、

「どうです?」と尋ねると、

「今日は全然だめだね」

 普段はもっとたくさん採れるという。もう一度、シュノーケルを貸してもらった。

水の中で息を止める。とても澄んでいる。目をこらせば、どんなに遠くまででも見えそうだ。手の届く場所に、小魚の大群。群れのまん中に手を差し入れても、近くの魚が面倒くさそうに逃げていくだけで、他の魚は動かない。互いに糸で結び付けられて固定されているかのよう。

バンブーとキノさんもシュノーケルを試した。軍艦島でシュノーケルすることになるとは、予想していなかった。

キノさんが陸に上がり、僕とバンブーはもうしばらく泳いでいたが、やがて桟橋に横たわって日を浴びた。濡れた体はすぐに乾いた。

「べたべたするけど、汗をかいたと思えば大丈夫」 

「宮崎の海はしょぼいということが良く分かった」

つい最近、宮崎に行っていたらしい。

「宮崎はどうしょぼいの」

「海水がもっと塩っ辛い」

「違いが分かるんかいな」

「だって、ここの海水、あまりしょっぱくないじゃん。宮崎は九十九里浜と同じで、しょっぱかった」

「それって、黒潮の味?」

そんな違いがあるものなのか? だが言われてみれば、ゴーグルをつけずに泳いだのに目が痛くないのは不思議だった。

しばらく太陽を浴びた。立ち上がった時、くるぶしの内側に黄色い水泡ができているのに気付いた。クラゲにやられたのだろうと思った。痒くはない。バンブーは平気だった。僕だけ運が悪かったらしい。

小学校の入り口でキノさんとクマさんが足を伸ばしてくつろいでいた。僕らの姿を見てクマさんが立ち上がり、「誰かがラッキーな忘れ物をしよってな」と言いながら小学校の奥に入っていった。やがてしわくちゃになった地図を持って戻ってきた。

「これ、高島町が出している地図。ちょうど三枚あるし。あげるわ」

地図の上に太い指を滑らしながら、「ここが二階建ての、鉱山長の家。ふつうの一戸建ての家だったんやけどな。木造だから、今は木っ端微塵になった」

 僕らも地図を目で追う。

「『老人クラブ』……老人もいたんですね。ここで生まれ、ここで死んでいった人もいたんでしょうか」

「おったやろな。島の歴史は長いし」

「『ちどり荘』ってのは?」

「あの建物だよ」グラウンドの隅に立つ二階建ての建物を指差した。公衆便所の隣だ。

「何に使ってたんです?」

「旅館、かな」とクマさんは推測した。あとで調べてみたところ、小学校の教員や家族が暮らすアパートだった。

「地図に『ドルシックナー』って書いてあるけど。意味分からんです」

「それは濾過装置」

炭鉱から汲み上げた水を濾過し、海に流すのに使うそうだ。

地図の右上に、島の全体を空から映した写真が載っていた。

「航空写真だけ見たら、リゾート地みたいですね。温泉が沸いたりしたら、また栄えるんじゃないかなぁ?」

「テーマパーク?」

「ある意味、すでにテーマパークですよ」

しかしクマさんは、軍艦島がそれほど安全な場所でもないという話を聞かせてくれた。

昔、S丸のような直行便が存在せず、隣の高島から来ていた頃。帰る時刻になったが、風が強い。桟橋で船を待っていると、手の届きそうな距離まで近付いたのだが、あまりにも風が強く、船長が『波が高くて着岸できないし、明日また来るわ!』と叫んで、そのまま帰ってしまったそうだ。結局クマさんは島で一泊した。「だから水は余分に持って来なくちゃいけないんだよ」と結論づけていたが、僕らは唖然とする。なんというアバウトさ。これではテーマパークは程遠い。それでもめげずに軍艦島に来るというのは、すごい根性だと思う。

「では、また探検に出かけますか」と、クマさんが威勢良く宣言した。

午前中だけ案内すると言ったはずが、なぜか午後も一緒にまわってくれる。申し訳ない気がするが、本人は乗り気である。キノさんはもう少し休むというので、三人で出かけた。

「病院を見てみよか」

小学校のすぐ隣が病院だった。室内は明るい。病院の廃墟といって思い浮かべるような不気味さがない。外から差し込む午後の日差しのせいかも知れない。すべてが乾いている。

手術室があった。手術台を照らす円盤型の照明がピンクとオレンジのペンキで塗りつぶされ、現代アートの作品になっていた。

旧手術室。

その隣はお風呂だった。

「きっと、手術の後でお医者さんが入るためのお風呂だよ。血まみれになるから」

レントゲン室のX線は見事に錆び付き、斜めに傾いていた。

「ここまで壊れていると、全然病院らしさが無いよね」

腐ったベッドの上にアルミ製のお盆が置かれ、コップと茶碗が乗っていた。コップが立っているのはわざとらしく、上陸者が悪戯で立てた可能性もある。

病院を出て、さきほど『高層長屋』と名付けた場所まで歩いた。中に入ると、驚くほど荒れ果てている。内部が木造なので破損が著しいのだ。クマさんが高級幹部の家で「ここなら住みたい」と言った理由がわかった。高級な家ほど保存状態が良いのだ。

だが長屋にもひとつだけ、やけに整った部屋があった。

「この部屋、保存状態がいいですね。畳の上に寝れそう」

 僕が寝転びそうになるのを慌てて制して、

「ダニつくで」

「なるほど。でも床の上なら寝れそうだ」

畳の縁に白黒写真が落ちていた。長髪の若い男。芸能人だろうか。あるいは「愛しの彼」か。よく分からない。昔の芸能人についてくわしいクマさんも、分からないと言った。

廊下を歩いていると、観光船のアナウンスが聞こえてきた。窓から見下ろすと、甲板から大勢の人間がこちらを見ている。

「この島が観光資源になるとはなぁ」とクマさんは笑う。

「二十年前には考えられなかったでしょうね」

「『ゴミが資源になる』とはまさにこのことやな」と、でっぷりした腹を震わせて笑った。

太陽が傾いて、海の上に白い光の道を作っている。

「海しか見えないね」

「海セラピーって、できそうだと思わない?」と僕は提案した。

 実際、僕の場合、水平線を見ているとなぜか心が落ち着くのだ。

建物の屋上に上がると、キノさんと出くわした。しばらく小学校の玄関で休んでいたのだが、回復してここまで歩いてきたらしい。

「ちゅーか、すごく焼けてません?」キノさんの顔を明るい光の下で見て驚いた。

首筋が真っ赤だ。まだ半日しか経っていないというのに。

キノさんは焼けている首のあたりをさする。「ねぇ、ここで写真撮ってよ」と頼まれた。

フェンスに寄り掛ってこちらに背中を向ける。キノさんは後ろ姿を撮られるのが好きらしい。

「男の後ろ姿やな」と、クマさんがからかった。

僕とバンブーはその場に腰を降ろして海をぼんやり眺めながら歌を唄った。「海は広いな」から初めて、サザンの海の歌、「僕らの七日間戦争」の歌など。いつのまにかキノさんとクマさんがいなくなってしまった。歌うのをやめると、ものすごく静かだ。

「携帯からカラオケをダウンロードできるよ」とバンブーが教えてくれたが、あいにく僕らの携帯はカラオケ再生に対応していなかった。

「『非対応機種』って表示される。ちきしょー」

伴奏無しで歌った。キン肉マンのテーマソングを唄っている時にクマさんが戻ってきて、僕らが思い出せなかった部分の歌詞を教えてくれた。

「男って、いつになっても子供ですね」

僕はとても機嫌が良かった。

「秘密の特訓とか、出来そうやな」

「歌の?」

「島ごもり特訓」

「カラオケセットが無いのが残念だな」

 クマさんなら持ってきかねないと思ったが、さすがにそれはなかった。

「ここ、リゾートにしなくちゃならんですよ」

 軍艦島の横に人工島を作って、そこにバーやホテルを建てて……と空想した。だが、人が大勢来るようになったら島の魅力は薄れてしまうのかも知れない。

海の向こうには高島が見える。島の中央から突き出した発電用の風車が止まっている。太陽は西の空にぶら下がり、いくらか弱くなった光を投げかけていた。

 午前中から正午にかけての強い光を反射し、挑戦的なほどに鮮やかだった白い廃墟が、次第に穏やかに、落ち着いた色合いに変わっていく。

 午後の日差しは朽ちていく島に優しい。

隣のアパートの屋上には草木が生い茂っていた。樹木好きの居住者が木を植えたまま去ってしまったのだろう。自分たちが立っている屋上と見比べながら、僕は言った。

「あのアパートの住人、自分たちの植えた木が三十年後も生い茂っているとは思わなかったんじゃないかな」

「こんなに酸素を出しつづけなんてねぇ」

 二十年ぶりに戻ってきてこの屋上を見たら、きっと感慨深いことだろう。

 暗くなってしまう前に、クマさんお奨めの部屋をいくつかまわった。 

最初の部屋では芸能人のブロマイドが襖を覆い憑く尽くしている。それぞれ誰であるかを教えてくれるので、僕らはいちいちびっくりする。あの人にも若い時代があったなんて!

さらに、「ものすごく荒れているけど原型が良く残っている」という部屋に連れて行かれた。中で誰かが大暴れしたのではないかと思うほど家具や雑誌が床に散らばっている。室内を物色しながら、

「それにしてもいろいろなものを置いていっていますね」と感心してしまう。散らかっているが、残された家財道具の数が豊富だ。

「まるで夜逃げしたみたい」

「これ、エロ小説じゃん」

バンブーがニヤニヤ笑いながら、変色した雑誌を拾い上げた。

「ここまで堂々と残していくとは。いったい何があったんだろう」

 押入の奥に隠していたのを、心ない訪問者が散らかしたような気もする。

「『淫婦の檻』、『エロチカ曼陀羅』……」

わざわざタイトルまで読み上げる。エロ本のタイトルも時代によって変わるのだなと、変なところで興味深い。

「あ。学生服だ」

「ということは・・・・・・家族で暮らしていて、お父さんが熱心にエロ小説を読んでおられたということか」

さらに物色してみると、エロ小説以外の雑誌も多い。

「このうちの人、本好きですね。っていうか、当時の人はみんな本が好きだったのかな?」

「娯楽があまり無かったんじゃないの」

「お。こんなところに、ケロリンの実物が。銭湯の湯桶の底の広告でしか見たことなかったのに」

箱入りのケロリン。三十年前の包装で、木で作られた箱だ。富山県何々市、と書かれている。ケロリンは富山の薬売りが発祥なのか。

「頭痛・歯痛に効くのか。ふーん」

 棚を調べていたクマさんが声を上げる。

「成績表や。○○○○君。昭和X年Y月Z日、高島小学校卒業」

「その人、今何才になりますか」

「えーっと、五十一歳。俺より十一歳年上やな」とクマさん。島が捨てられてから三十年になる。小学六年生が五十一歳になってしまうほど長い年月が流れたのだ。

畳の上を土足で歩きながら、

「プライバシーって、新しい概念ですよね」と呟いてみる。○○さんは、自分の住居がここまで物色されることを覚悟で出て行ったのだろうか?

廊下から海が見えた。オレンジ色だった。そろそろ日が沈む。灯台に行きたいとバンブーが言い出した。僕とクマさんは賛成した。草むらの間を抜けるのが近道だった。灯台の横の貯水槽に登っている男の子たちがいた。島で一番高いのがこの貯水槽だ。

黄昏ゆく軍艦島

灯台には女の子たちが座っていた。海の方を見ている。水平線に雲がかかり、太陽を隠していた。

「お盆の夕暮れがやってくるよ」と、ひとりが呟いた。

 やがて、男の子たちが貯水槽から降りてきた。夕陽が見られないのなら、早くテントに戻って湯沸しを手伝おう、などと相談している。帰ろうとするのを呼び止めて、

「みなさんは授業とかで来られたんですか?」と訊いてみる。

「いえ、授業じゃないです。先輩が昔、先生に無理やり連れてこられたみたいなんですけど。あまりにも感動してしまって。また行こうって呼びかけて、集まったのが僕らなんです」

白いTシャツに短パンの、闊達そうな男の子が答えた。

「サークルみたいなもんですよ」と、女の子が付け加える。さきほど建物の絵を描いていた、かわいらしい女の子だ。

「面白い先生がいるもんですねえ」と僕は感心する。

短パンが、「皆さんは、廃墟マニアですか?」と訊ねた。

「いや、僕は単なる旅行好きです。彼は高校の同級生。それからこの人は、軍艦島に来るのが十六回目で……」

「十六回!」

尊敬と思えないこともない眼差しで見つめられて、クマさんはえらく照れていた。

「皆さん、今夜はどこで寝られる予定ですか?」と、先輩めいた口調でクマさんが尋ねた。

「堤防の裏で、寝袋に入って寝ようかと」

「ふんふん、それはいいね」とクマさんが保証する。

 美大生たちは仲間と一緒に夕食をとるらしく、急ぎ足で帰ってしまった。僕らはもうしばらく薄紫色の空を見つめていた。

「日が沈んでしまったな」とバンブーが呟いたので、

「本当に沈んだのかな?」と言ってみる。

雲のむこうなので、よく分からない。

「沈みましたよね」バンブーがクマさんの同意を求める。

「沈んだな」と答えて、「雲が接近してきているような気ぃするけど。どうやろ?」

 クマさんは雨を心配していた。大雨が降ったらどうなるのだろう? 島の一部が崩れ落ちたりするのだろうか。

僕らは薄暗くなった尾根沿いの道を帰った。

「月が出た」

「どこ?」

「灯台の後ろ」

半月である。中天に懸かっている。

「お月様はお日様に照らされているってことが、よく分かるねぇ。他に光っているものが無いからだろうけど」

島はやがて闇に包まれる。イカ釣り漁船の光と半月、そして星だけが静かに輝くのだ。

深い色に染まった建物の間を、グラウンドまで歩いた。途中、坂の上から堤防を見下ろすと、釣りをしている人たちが見えた。

「明日は休みだし。朝までおるのと違うか?」と、クマさんが解説した。

小学校の裏手に降りた時には空が藍色に染まっていた。振り返って月を見上げると、まるでランプのように明るく光っている。坂の上に広がる茂みのシルエットと重なると、中国の古い詩にでも出てきそうな情景だ。


小学校の玄関でキノさんがぼんやりと座っていた。夕方、学校前で合流する約束をしていたのだ。僕らの姿を見つけ、急に生き返ったように背筋を伸ばした。

「心配しましたよ。どうしてました?」

「灯台で夕陽を見てました」

約束の時刻をかなり過ぎていた。

山形の学生は堤防の前にテントを張り、火を焚いている。

「堤防は丈夫やし、あの場所は悪くない」

「けど、蚊が多いかも」

バンブーが難色を示した。グラウンドの真ん中は蚊が多いが、建物が崩れる心配は無い。一方、建物の上は蚊の心配がないが、光が使えない難点がある。窓から光が漏れたりしたら、すぐに通報されてしまう。するとクマさんが思い出したように、

「雨戸を締め切って外に光が漏れないようにできる部屋があるけど。そこなら、中で明かりをつけても、外には漏れへん」

「くわしいですね」

「よく泊まってるしな」

「部屋の大きさは?」

「六畳くらい」

「狭いな……四人、寝れるんでしょうか?」

「大丈夫」と、太鼓判を押された。

キノさんはどちらかというとグラウンドに寝ることを望んでいたようだが、僕とバンブーが室内泊を希望したので諦めた様子で同意してくれた。

クマさんの後について、夜の島を移動した。途中、人が住んでいないはずのアパートの二階から明るい光が漏れていた。「宴会しちょるわ」と、クマさんが呟く。先ほど電話で話した知り合いの人たちらしい。明かりのついた部屋は中庭に面していて、海からは見えないのだ。だから、文句を言われることもない。廃墟の中でそこだけ人間くさく、特別な雰囲気だった。まるでマグリットの鳥の絵みたいだ。

重い荷物を抱え、真っ暗な階段を上がる。携帯のバックライトなら使ってもいいと判断した。これくらいの光ならイカ釣り漁船は見えまい。

「携帯ってすごいよねー。サバイバルで一番役に立つのは、携帯らしい。テレビでやってた。助けも呼べるし、音も出る。ライトにもなる」とバンブー。

「なるほどね。万が一の時は、人を叩く武器にもなりそうだしなぁ」

ありえない話だとは思うが、仮にクマさんが凶悪犯罪者であったりしたらどうしよう。人を食べちゃうような異常人格者だったら? 

「ごめん、この階ちごたわ。ひとつ下やった」

 罪のない顔で言って、重たい荷物をかかえた僕らを下の階まで歩かせた。目当ての部屋が見つかった。懐中電灯で中を照らすと、バンブーが歓声をあげた。

「すご! 普通の家だ」

 人が住んでいると言われても驚かないほど、整頓されていた。

「生活できそう」

「これくらい散らかってる友達の部屋、いくらでもありますよ」

あたりを見回して、なんとなく見覚えがあることに気付いた。

「あれ? これって、さっき入った部屋じゃ?」

襖にブロマイドがたくさん貼られている部屋だった。

「そうそう、ここって、密閉されとるんやで」

整って見えるのは、僕らの目が軍艦島の散らかり具合に慣れてしまったからかも知れなかった。

僕らが部屋の中をうろうろしていると、クマさんは金属製のカバンからランタンを取り出し、油を注ぎ始めた。

「大丈夫なんっすか?」

いくら外から見えないと言っても、藁を敷き詰めた居間の上でランタンとは、なかなか大胆に思われた。

「無茶しはる人なんですね」と僕が呟くと、キノさんがすかさずツッコミを入れる。

「それ、もうだいぶ前から分かってるって」

火が点った。ランタンの中でごうごう音を立てて燃えている。

「これって、すごく火事になりそうな装置じゃありません?」

「そうかな?」

「ライターとかよりも、よっぽどヤバくないですか?」

「まぁまぁそう怒らずに」

「明るい・・・」バンブーは感心している。僕らは夕食のパンをつまみ始めた。二食連続でパンというのはひもじいが、これくらいでくじけていてはならない。なにしろ、明日の朝もパンなのだ。一方、クマさんはカバンからパック御飯を取り出した。そして携帯用コンロでお湯を沸かし始める。密室部屋の中で、キャンプ状態だ。さすが島で一週間暮らしただけある。

窓に隙間がないことを確認して、フラッシュ撮影した。「絶対大丈夫」とクマさんが断言した。

 なぜか体育座りをしているバンブーが言った。

「ここ、暑いよね。でも、蚊がいないのがいいや」

「嫌いなんだ」

「すげぇ嫌いでさ。蚊がいると、眠れない」

「なら、屋上で寝ない? 蚊もそれほどいないと思うけど」

「そうしよーか。ここじゃ、旅館に泊まっているのと変わんないしね。クーラー無しの旅館だ」

 せっかく部屋を紹介してくれたクマさんには申し訳ないとも思ったが、あまり気にする人ではなさそうだと自分に言い訳し、僕とバンブーはさっさと屋上に上がってしまった。あとから、キノさんとクマさんもついてきた。密室部屋は寝床としてではなく、荷物置き場として役に立ってくれそうだった。

屋上は半月に照らされて、明るい。

バンブーが腹をさすりながら、

「何かに当たったかも知れない。少し痛い」

 食べているものは普段と同じはずだが。パンが熱で悪くなっていたのだろうか。

クマさんがおどけた顔で、

「トイレは離れたところのを使ってや。流れへんし」

そして軍艦島のトイレ事情の説明をしてくれた。

「六十五号棟のトイレはみんながよう使うから、ふつうにトイレになっとる」

そこだけ、生々しい「生活の匂い」がするらしい。

「ほんわかしたのが、残っていたりするわけですね」

「グラウンドのトイレにはトイレットペーパーがついてましたよ」とバンブーが付け加えた。

「すげぇ」

他にもいくつか、よく使われるトイレがあるらしい。

半月に照らされた屋上をぐるりと一周した。遠くに神社のシルエットが見えた。

「あの神社、拝みたくなりますよね」

「ほーんとだな」

「鬼太郎ハウスみたいだ」

 バンブーが手を合わせた。

腰を下ろすと、日中に蓄えられた熱で暖かい。寝袋が無くても寝られそうだった。

お菓子や酒を地面に広げた。

「半月に乾杯!」

「軍艦島に乾杯!」

プラスチック製の焼酎容器やウィスキーのミニボトルで乾杯した。

クマさんが自分のことを話し始めた。もうじき北海道に行く、と言った。旅行ではなく、定住するそうだ。

「北海道のどのへんに行くんですか?」

「まん中辺」

「旭川? 帯広?」

「その近く。まだはっきりとは決めていない」

言いながら、ランタンの熱で温めたパック御飯を忙しそうに口に運んだ。

「仕事の当てはあるんですか?」

「無い。バクチや」

「いーですね。人生、バクチだ。ひとつのギャンブルですよ。パチンコするより、自分がパチンコ玉になった方が楽しい」

「そうそう。人生はパチンコ玉や。真ん中の花に入るか、下に落っこちるか。分からへん」

クマさんは満足そうに言った。

星の話をした。月の話、そして島の話をした。

「半月は真夜中に沈むから。十二時過ぎに星が綺麗に見えるようになりますよ」

「満月の時に高島から見る軍艦島も、綺麗やで。ぼーっと浮かび上がりよる」

 いつか見てみたいと思った。

 きょろきょろと地面を見回していたキノさんが不安げに尋ねた。

「この島、蛇とかいないんですね」

「おらん。ここで見たことのある動物といったら、ネズミ・ゴキブリ・トカゲ・ハチ・・・それから、本につくシラミ。本はたくさんあるしな」クマさんの自信ありげな説明は、僕らを安心させた。

僕は泳いでいる時にくるぶしの内側にできた水泡を、携帯のバックライトで照らしてみた。大きく膨れたのが潰れて、擦り傷のようになっている。くるぶしだけではなく腿の後ろ側や膝にもできて、黄色い汁が溜まっている。本当にクラゲだったのだろうか。それとも何かの虫か。

クマさんが時計を見て、すっと立ち上がり、階段を降りていった。

「どうしたんですかね?」

「知り合いの宴会に参加するらしいよ。ほら、さっき、明かりが点いていた部屋」とキノさんが教えてくれた。

さきほど携帯に連絡が入った時、誘われていたらしい。

僕は寝転がった。星を隠す雲を見上げて、明日の天気を占おうとした。

十分もしないうちに、宴会に行ったはずのクマさんが帰ってきた。

「宴会は?」

「もう寝とった。今、何時かいな?」

「十一時二十分ですけど」

「えらい、寝るの早いな」

クマさんは舌を打ち、僕は眼を閉じた。しばらくして寝袋のむこうから、せいやっ、せいやっ、という掛け声が聞こえてくる。ちらりと眼を開けると、クマさんが太極拳のような体操をしていた。僕はまた眼を閉じた。

朝になれば、きっと太陽の眩しさですぐに目が覚めてしまうことだろう。日の出は六時くらいだろうか。まだ早い時間だったが、眠りに落ちた。

夜中に一度だけ目を覚ました。午前三時頃だった。月は沈み、星の数がぐんと増えていた。海には船の明かりが見えた。バンブーもむくりと起き上がった。ふたりとも目覚めさせるような何かがあったのだろうか。バンブーがトイレに行くと言うので、ついていった。他人の部屋のトイレに無断で小便するのはなんとなく気が引けたが、遠くの公衆便所まで行く気はなかった。

寝袋に戻り、すぐに眠りに落ちた。

次に目を覚ました時、空が真っ青だった。日が昇ってから、かなりの時間が経っているようだった。暑いので、日陰に移動する。そしてまた眠ってしまった。二度寝から目覚めた時には、すでに八時頃になっていた。僕以外、みな起きていた。寝袋をかついで八階の密閉部屋に行った。寝ぼけていたせいか、部屋に入ったところで靴を脱ぎかけてみんなに笑われた。

忘れ物がないか確認した。取りに戻ってくるのは、かなり大変だろう。誰かに郵送してもらうわけにもいかない。部屋の中を見回すと、クマさんの蚊取り線香に火が付いたままだった。

「忘れ物ですよー」と手渡すと、

「ああ、すんません。私としたことが・・・」と恐縮していた。

小学校前で新しい上陸者に出会った。ヤマナシさんといって、山梨から来たと言っていた。本名だかどうか分からない。原付で全国をまわっているらしい。早朝五時に釣り舟に乗って来たという。軍艦島に来るのは二回目。僕らのようにあくせく島内をまわることもなく、学校の入り口に座ってのんびりしている。昼の十二時に帰る予定で、それほど時間がないはずなのに、ゆっくり休憩を取っていることをうらやましく思った。

バンブーがしきりに「風呂、風呂」と呟く。つまり、海で水浴びしたいのだ。キノさんとクマさんば必要ないと言うので、ふたりで桟橋に向かった。

堤防に寄りかかって、美大生たちがぼんやりしていた。

「よく寝れましたか?」と声をかけると、昨日と同じ短パンと白シャツを着た男の子が「はい」と、威勢のいい声で答えた。

僕らは桟橋に降りて朝食をとった。バンブーはパンをかじり、僕は缶コーヒーをすすった。

「昨日より、波が高くない?」

「高いね」

 風も出ている。だが、泳げないほどではなかった。僕は海に飛び込んだ。しばらく泳いでいるうちに、足や腕がちくちくと痛む。クラゲかな、と思った。波が高いから、流されてきたのかも知れない。我慢できなくなって水を出た。黄色い水泡は、今回は出来ていなかった。

島を去る時間が近付いていた。バンブーが海を見つめながら呟いた。

「来てよかったよ。誘ってくれてありがとう」

 僕は恐縮して、頭をかきながら答えた。

「いやー、こちらこそ。来てくれたおかげで本当に楽しかった。ありがとう」

突然の誘いに乗って、島まで来てくれたこと。慎重に備品を買い揃えて準備してくれたこと。そして最後に楽しかったと言ってくれたこと。いろいろなことに感謝していた。

堤防の内側では紫帽子の女の子がタバコをふかしていた。僕らと同じ首かけ式の蚊取り線香を持っているのに気付いて、バンブーが話しかけた。

「同じっすね」

「ほんとだ。これ、便利ですよねぇ」と答えて、にっこりと微笑む。笑い方がとても可愛らしかった。

小学校前ではヤマナシさんとクマさんが熱く語り合っていた。年代の近いふたりは意気投合している。廃墟の探検も楽しいが、崩れ落ちそうな小学校の下で語り合うのも素敵だと思った。

午前十一時。船のエンジン音が聞こえてくる。荷物をまとめるのには時間が掛からなかった。美大生たちも同じ便に乗った。クマさんは夕方の便で帰るので、もうしばらく島に残る。ヤマナシさんと一緒に荷物のバケツリレーを手伝ってくれた。

船が戻ってきた。

S丸の甲板は人でいっぱいになった。

船長は今朝は黒いサングラスを掛けていた。だいぶ似合っている。昨日よりも男前だ。

S丸が岸壁を離れた時、女の子たちが短く声を上げた。船から身を乗り出し、島の方向に手を伸ばしている。紫の帽子が無くなっていた。風に飛ばされた様子。島に落ちたか、海の上に落ちたか。どこに行ったか、分からなくなってしまった。

さらば軍艦島。

船は波を蹴り割って進んだ。香焼港までの直通で、三十分もかからなかった。

港からタクシーに乗った。軍艦島に行ったことを話すと、運転手さんは偶然にも島で働いていたことのある人だった。車のドライバーをしていたらしい。

「あんなに狭い島なのに、車がいるんですか」とバンブーが訊ねると、

「一台だけだったよ。清水建設に雇われてね。護岸工事の運転手。仕事は船から荷物を上げる時だけで、それ以外は暇ですからね。月給もらいながら魚釣りしてね。いい時代だった。もう三十五年前の話だけど。石炭掘っている頃の軍艦島は良かったよ。全部、無料だよ。映画館も無料、風呂は二十四時間営業」

「お風呂って、結構小さくありませんでした?」

「いや、鉱夫の人は坑内の風呂を使うから。建物の中のは、鉱山会社の社員用」

公衆浴場が狭すぎるという疑問がようやく解決した。

僕らは民宿で荷物を回収し、市街地に向かってもらった。

みな、おなかが減っていた。中華街に行くことにした。

賑やかな通りに、たくさんの人間が歩いていた。廃墟からいきなり長崎で一番活気のある場所に来てしまったのだ。ギャップを感じないわけにはいかない。

喧噪の中に立つと、軍艦島という場所の奇妙さを思い出さずにはいられなかった。

 

(2003.5.5 Taro Tezuka)

 

 



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